中小企業の働き方改革と『働かせ方改革』 業務改善に取り組むためのヒントは? ~FYSブログ記事まとめ~
本記事は、寄稿したFYSブログの働き方改革シリーズ記事を総括し、まとめたものになります。
政府の旗振りのもと、「働き方改革」が具体的な取り組みとして挙げられてから〇年が経ちました(本記事執筆の2019年時点)。
大企業を中心に働き方改革は進み始めているかと感じる一方で、中小企業の働き方はまだまだ昭和の名残を感じさせるものである企業も多くあります。中小企業はIT活用に壁があることもその一因ではありますが、それらを踏まえて現状を纏めてみました。
この記事を読むと、働き方改革についての概要を理解することができます。
- 中小企業が取り組む働き方改革の指針を得られる
- 働き方改革の重要性とメリットを理解できる
2019年における働き方改革の現在地点とは?
政府が目指す「一億総活躍社会」の実現、その最大のチャレンジとして「働き方改革」が推進されています。働き方はすなわち暮らし方であり、企業文化のみではなく、働くということに対する考え方そのものを改革していくことが要求されています。
2019年4月から働き方改革関連法案が順次施行されている
2018年6月に成立した働き方改革関連法案は、2019年4月から順次施行されています。
各法案の概要と施行時期を見てみましょう。
特にポイントとなる改正論点は、以下の3点が挙げられます。
ポイント① 時間外労働の上限規制
原則、時間外労働の上限(月45時間・年360時間)とし、「臨時的な特別の事情」がなければ、これを超えることができなくなります。
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、
・年720時間以内
・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
・月100時間未満(休日労働を含む)
を超えることはできません。
また、原則である月45時間を超えることができるのは、年間6か月までとなります。
ポイント② 年次有給休暇の年5日取得義務
10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対し、毎年5日、時季を指定して有給休暇を与える必要があります。
これは、正社員・契約社員のみでなくパートアルバイトも対象になりますので注意が必要です。
知人社労士も頭を悩ませる改正の一つですね…。
まだまだ中小企業の経営者には有給の存在が認識されていないのが現状です。
ポイント③ 正規・非正規の間の不合理な待遇差の禁止
いわゆる、同一労働同一賃金の原則です。正社員と非正規社員(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに不合理な待遇差が禁止されます。
中小企業が働き方改革に取り組むべき、最たるメリットは人材不足の課題解決
日本の労働制度と働き方の課題
日本の労働制度と働き方にある課題として、政府は次の3点を挙げています。
これらの課題を達成すべく、働き方改革関連法案が決議・施行されました。
正規、非正規の不合理な処遇の差
理由なき格差を埋めて適切な評価を行い、働くモチベーションを誘引することで労働生産性の向上をねらう。
長時間労働
長時間労働が当たり前かのような風潮が蔓延している現状を変える。長時間労働の是正は女性や高齢者の就業を促し、労働参加率の向上に結びつく。また、単位時間当たりの労働生産性向上につながる。
単線型の日本のキャリアパス
転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行を確立することで、自らキャリアを設計可能にする。付加価値の高い産業への就業を促して国全体の生産性の向上にも寄与する。
課題解決に向けた働き方改革の施策は、当然、中小企業にも影響を与える
働き方改革が推進される背景は、少子高齢化による労働力人口の減少、人手不足です。
中小企業は、大企業と比べて待遇に差が生じやすく、慢性的な人材不足となっています。結果、現従業員の超過勤務に依存し、離職や休職を招く悪循環に陥っています。
すなわち、上述の3つの課題を中小企業においても解決することは、従業員の就業環境の改善に繋がり、人材採用における魅力度のアップも図れます。
働き方改革は中小企業にとっても他人事では無く、直面する人材不足という課題の解決に向けたアクションとして取り組むべき喫緊の課題となっています。
中小企業の働き方改革・業務改善に対する取り組みの現状
ここで、商工組合中央金庫が公開する調査結果を見てみましょう。
商工中金が2017年に実施した調査結果 「中小企業の「働き方改革」に関する調査 (2017 年 1 月調査)」 はこちらから
この調査、また実施してくれないかな…少し古い調査データになってきてしまいました。
このアンケート結果では、様々な面白い傾向を見て取ることができます。「効果は感じられるものの、導入・実施が進んでいない取り組み」という、中小企業の支援者としても関心の多い区分もあります。
具体的には、「サテライトオフィス」「在宅勤務」「外国人労働者の活用」「モバイルワーク」が効果を感じられる取り組みであるとのこと。
確かに、働き方を一変させる取り組みであり、実際に運用できれば大きな効果を得られることは予想できます。一方で、実施状況としては低く「在宅勤務」「サテライトオフィス」はいずれも10%に満たない状況です。
中小企業では人手不足は年々深刻化し、重要な課題となっているが、これらの「導入・実施が進んでいない」ものを活用することで、その解消に向けた歩みを進めることができるでしょう。
こちらの調査データは2017年時点であり、最新の状況ではまた変わってくると予想されます。より良い方向に変化が起こっていると良いですね。
中小企業の働き方改革に対する取り組みのヒントとなる事例を紹介
テレワーク(在宅勤務)制度を導入した事例
2020年の東京オリンピックに向けて、国を挙げて取り組んでいるテレワーク制度の導入。テレワークデイズの制定や助成金制度を絡める等、様々な取り組みを進めています。
大企業でテレワーク制度が導入された事例を耳にする機会は増えてきましたが、本来テレワーク制度は中小企業こそ相性が良いと考えています。
理由は、中小企業に勤める優秀な人材は裁量範囲が拡がる傾向にあることから、自身で業務スケジュールの調整が比較的融通を利かせやすく、テレワークの日に合わせて事務作業を貯めておく運用が可能な点です。
もちろん、それを可能とするだけのスキルと上司からの信頼が必要ではありますが。
私が関与する数十人規模の税理士法人においても、テレワークが採用されています。
具体的には、就業規則の整備とともに以下のシステムを活用することで達成しています。
福利厚生を拡充した事例
私が関与経験のある運送業では、福利厚生の一環として電子タバコを無料提供する制度を設けています。
電子タバコぐらいじゃ…と思う方もいるかもしれません。
ですが、そこにはトラックドライバーとして叩き上げから一代で会社を築き上げた社長の持論がありました。
トラックドライバーは、イメージの通り喫煙率が高くなっています。
その会社に勤めるドライバーも、ほぼ全員が愛煙家でした。
ですが、他人のタバコの臭いは不快に感じるそうです。
トラックの運転席にその臭いが染みつくことがモチベーションの低下に繋がっているということで、事務所内に喫煙スペースを設けて電子タバコを補助する制度を新設しました。
結果、ドライバーの離職率も減少し、従業員満足度を高めることができました。
オフィス環境を改善した事例
こちらの事例は、中小企業というには少し大きい会社さんですので、簡単な紹介に留めます。
(ITベンチャー企業ならオフィス環境への投資額は大きいことが多いですが)
オフィスの引っ越しを機に、働く環境を一新しました。
キャンプをコンセプトとして、以下のような取り組みで屋外の雰囲気を居室に持たせています。
- 白神山地などの自然の名所の音を録音して流す
- 投影する映像も自然を意識
- 居室の真ん中にテントを張ったり、一部の什器をキャンプ用品にしたりしてアウトドア感
実際にオフィスを見学するのが早いですが、その会社のHPリンクだけ紹介しておきます。
働き方改革・業務改善と効率化を進める上で活用できる支援制度の紹介
働き方改革は、国が抱える課題を達成するための施策として政府肝入りの産業改革となっています。当然、補助金・助成金やその他の仕組みで多数の支援制度が実施されています。
支援制度は、知っているかいないかで経営に大きな差が生まれてしまうものです。
情報をしっかり集めて、活用できるものはしていきましょう。
厚生労働省系の助成金の紹介
厚生労働省系の助成金は、基本的には社会保険労務士が対応専門家となります。
残念ながら私も詳しくはありませんが、人に関する補助は厚生労働省系の助成金で受けられると考えて頂ければ良いでしょう。
有名なものはキャリアアップ助成金ですが、テレワーク導入などを支援する助成金もでています。
「時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」
在宅勤務やサテライトオフィス等のテレワーク導入の取り組みをサポートする「時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」の申請は12/2(月)までとなっています。
「時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」は、中小企業が在宅やサテライトオフィスでの就業等のテレワークに取り組む経費を助成します。テレワーク用通信機器やクラウドサービスの導入等に活用できます。
対応が可能な社会保険労務士を紹介することも可能ですので、詳しくはお問い合わせください。
経済産業省系の補助金の紹介
こちらが、我々中小企業診断士が専門とする補助制度です。
システム投資や効率化のための設備投資が補助対象となる補助金は、例年いくつか募集されていますので、そちらを申請して取り組むことも良いでしょう。
IT導入補助金
(2019年度募集実績)
補助額 上限450万、下限45万
補助率 1/2
※つまり、90万以上の投資が対象
来年度も募集されるのであれば、働き方改革に取り組むための投資に対する補助として最有力の補助制度となるでしょう。
ものづくり補助金
(2019年度募集実績)
補助額 500万、もしくは1000万
補助率 1/2 、もしくは2/3
恐らくほぼ確実に来年度も募集されるであろう、中小企業向けの補助金としては最も有名な制度。製造工程を効率化できる機械設備などが対象となりますので、特に製造業は検討をお勧めします。
小規模事業者持続化補助金
(2019年度募集実績)
補助額 50万、もしくは100万
補助率 2/3
毎年人気の小規模事業者持続化補助金。2019年度は、その採択率の高さでも話題となりました。小規模事業者であれば、システム投資費用も対象となり得ますので検討に値します。
その他、関連する国の施策や都道府県・地方自治体の支援制度の紹介
働き方改革支援センター(無料相談窓口)
各都道府県に存在する支援機関で、社会保険労務士などの専門家に無料で相談することができます。
東京都の働き方改革奨励制度
ここ数年連続して募集されている奨励金制度、及び、就業規則などの改定の補助を行う東京都の支援制度です。働き方改革を宣言し、計画を立てるだけで30万円の奨励金を得られることから、ギフト的な制度として一部で話題になりました。
詳しくは、こちらの記事に記載しています。
働き方改革・業務改善と効率化に役立つ、中小企業でも使えるITシステムの紹介
働き方改革・業務改善や効率化を進めるにあたっては、まず最初に取り組むべきは企業・組織文化の変革と業務プロセスの見直しです。ITシステムの活用は、それらが終わって身綺麗になった後に導入しないと効果を得ることは難しいでしょう。
業務プロセスの見直しは一筋縄ではいかない、専門家をいれて腰を据えて取り組むべき課題です。少なくとも数か月~半年は必要となります。その手順は別記事に紹介するとして、ここでは活用できるITシステムについて紹介していきます。
テレワークに必須の電話会議システム
電話会議システムは、無料から有料のものまで多種多様に存在しています。
ここではサービスを紹介するに留め、比較結果やメリットデメリットの紹介は別の記事で詳細を記述したいと思います。
なお、いずれも中小企業が利用するに充分な価値や機能を持つサービスですので、安心して検討してみてください。
- Zoom
- Appear.in
- Googleハングアウト
- Line
- Skype
テレワークに必須のチャット/コミュニケーションシステム
現状、日本国内では以下の3サービスが拮抗している印象です。
いずれも特徴があるサービスですので、比較検討してみるのが良いでしょう。
今後どうなるか興味深いサービスは、Microsoft Teamsです。
Teamsが伸びるかどうか、というよりも、Office365がそのシェアをどのように拡大していくか、が見ものであるということですが。
リモートワークを増やすなら顔が見えるシステムを導入したい
FYSブログでも紹介しているタレントマネジメントシステムは、テレワークや遠隔拠点が増えてきた場合にぜひ導入を検討したいですね。
特に管理部門からすると、顔が見えるマネジメントシステムを用いることで、より従業員に対する意識を高めることが可能です。
働き方改革とIT活用は、目的と手段の関係にあります。
IT活用は重要な取り組みですが、それ自体を目的にすると会社のIT戦略を見失ってしまう可能性があります。
本質をとらえた社内のIT化の推進をしていきましょう。